会計・経営リポート コラム
「今こそ問いたい商売の品格」
長野県の諏訪湖はそのむかし、子どもたちが泳いで遊ぶほどきれいな湖だったそうです。それが経済成長期に水質汚染が進み、一時期は「日本一汚い湖」と言われたこともありました。
今ではずいぶん浄化活動が進んでいるようですが、諏訪湖がまだ「汚い湖」だった頃、毎朝、ゴミ袋を片手に湖畔のゴミ拾いをする一人の男性がいたそうです。地元で商売をしているTさんです。 「諏訪湖で泳ぐ子どもたちの姿をもう一度みたい」、Tさんのそんな願いから始まった、たった一人の諏訪湖清掃は次第に人の知るところとなり、地域の人たちも朝のゴミ拾いに参加するようになったそうです。
そんなある夏の朝、湖畔に大量の花火カスが落ちていました。「誰だよ、せっかくきれいになってきたのに」。ゴミ拾いに参加していた人は、その光景にガッカリして腹を立てました。 ところがTさんは、目を輝かせながらこう言ったそうです。「いやぁ、嬉しいな。やっとみんなが諏訪湖で遊んでくれるようになったよ」。 Tさんの言葉に、その場にいた全員が「この人にはかなわない」と襟を正したそうです。
Tさんは精密機械の商売をしています。商売のやり方も諏訪湖清掃と同じです。仕事の依頼主には、「おたくから○○円でいただく仕事を下請けには△△円で出し、その差額で従業員を養っています。 ですからこれ以上値下げされると従業員に給料を払えません」。下請けさんには、「入りの金額は○○円。だからおたくには△△円で出します」。 すべての金額を包み隠さず提示するTさんに対して依頼主も下請けさんも「この人にはかなわない」とやはり襟を正すのだそうです。
従業員が普通に暮らせるだけの商売ができればそれでよし。それ以上の欲を求めると商売が長続きしない。Tさんを商売人として、人として慕う人はとても多く、「Tさんがそう言うなら」とあっさり話がまとまることも少なくありません。
一時期ブームになった「○○の品格」という言葉を、今こそ自分の商売に当てはめて考え直してみたいものです。業種や業態が違っていても、世のため人のために商売をしている人には、どうしたってかないません。